FullSizeRender

「【中国拳法は力より技を重視する】


中国拳法は力を増す鍛練よりも、力をいかにして巧みに運用するかという練習法に重点をおいている。


力はないよりもあるに越したことはないが、あまり力の鍛練に偏重すると、のちには力に頼った技が先走るようになり、最後は拳法の行き詰まりをたどることになる。


これというのは、力の強弱と体格の大小は相関関係にあるゆえ、体の小さい人は体の大きい人に比べると力が劣ることが多い。たとえ訓練によって、ある程度力の強化が図れたにせよ力の増強には限界がある。


それに体格の大小は先天的な要素が大きく関連しているので、この体格の大小と力の強弱のハンディキャップ(不利な条件)を力の鍛練で乗り越えるのは、困難なことである。まして力は時(年)がたつにつれて、衰えて行くので、力に頼った技も、これにしたがって効力を失い、拳法の行きづまりが生じるのである。


力が有限であるのに比べて、技は無限であり時間が経つにしたがい、力の衰えるのに対し技は段々と磨きがかかる。よってこの技の学習と研究を続けることこそ、体格の大小による力の強弱やリーチの長短のハンディーキャップを補うことのできるもっともよい方法であろう。


【体の小さい者が大きい者と戦うには】


体の大きい者、すなわち手足の長い相手と戦う場合は、長距離戦(問合が広い)よりも、接近戦をおこなった方が得策であるのは周知の通りである。


長距離戦では、自分の攻撃はリーチ(手の長さ)が短いため、相手に届かず、相手の長いリーチの攻撃を一方的に受けることになるのできわめて不利である。


だが、接近戦になれば、自分の攻撃も相手に届くようになり、しかも間合の狭まった接近戦では手足の長い方よりも短い方が、小きざみに動きやすい利点がある。手足の長い方はその長さが災いして動きが思うようにとれなくなる。


戦いは遠距離から接近戦へと順次におこなわれるので、接近戦の利点を生かすにはまず、遠距離戦をかわして接近戦に持ち込む研究をするべきである。


【相手の動きを事前に知るには】


接近戦に入り込むにはまず相手の攻撃より自分自身の安全を守ることである。それには相手の動きに対してすばやく反応を示すことも大切であるが、相手の動き(攻撃)をいかに前もって読み取り、さらに相手の動きを封じ込むことがもっとも肝要である。


相手の動きに対する反応は、個人の反射神経や経験によるところが多いので、研究の対象から外し、相手の動きを前もって読み取り、封じ込める二点に集中して考える。


相手の動きを読み取るというのは、相手の動きの意図をいちはやく見破り、そしてそれに対応すべき措置を整え、攻防に有利な体勢を確保することである。


たとえば、相手の踏み込みで、相手の攻撃の時機を知ることができる。そして相手が攻撃する標的も自分の構え方で相手の攻撃法を概ね知ることができる。


これというのは、相手の攻撃は自分に向けておこなわれるので、その攻撃の目標はたいてい自分の構えの隙である。


相手の攻撃する場所=自分の構えの隙を知ることによって、相手の攻撃する方法も前もって知ることができ、自分に有利な攻撃を展開することができる。


また、自分の構えに打ち込まれる隙が小さい、あるいはない場合、相手があえて攻撃を加えるのであれば、相手は攻撃の邪魔になる自分の構えを崩すことから着手することになるので、相手の構えの崩れ方で攻撃のパターンを予見することができる。


これによって相手の攻撃の隙をついて逆襲することも可能であるなど、より効果的な攻防をくり広げることができるのである。

相手の攻撃を予見できることによって、相手の攻撃の出ばなを挫き、そして攻撃を封じ込むことが可能になる。


たとえば、自分の手を相手の中心線に向けて構えたとする。攻撃する相手にとって、自分の構えの手は攻撃の邪魔になるだけでなく、相手の中心線上にある、鼻・のど・みぞおちなどの急所をねらいつけているため、相手は攻撃するにはまず、中心線が制圧されている脅威を取り除くことが先決になるので、相手の攻防は一歩遅れることになるばかりでなく、相手の攻撃する勢いははずされる。


このようにして自分は相手の攻撃を未然に封じ込めることができると共に、攻防の主導権を握ることになる。


【有利な体勢を確保するには】


自分の攻防に有利な体勢を確保するには、相手の長いリーチの攻撃をかわして、接近戦に持って行くのであるが、その方法は相手の攻撃を担う手を殺すことである。(足は体を支えるなどの役目があるので説明の便宜上はぶく)


つまり、自分の手(片手又は両手)を相手の手(片手又は両手)に粘りっこくくっつけ、纏わり付くことにより、相手の後退・防御の動きを牽制し、攻撃を阻止することができるのである。


こうしてより安全に相手に接近することができるのである。


【力の弱い者が強い者と戦うには】


力の強い相手と戦う場合には、やはり遠距離戦は不利である。というのは力は動くことによって加速度的に威力を増し、勢いつくものである。


その勢いづいた攻撃をくい止めるのは容易なことではない。そして相手との距離を遠く保つことは相手に動く距離・範囲を広く与えることであるので、相手の動く空間を狭めることができれば、相手の力を未発のうちに封じ込めたり、流す、消す、もしくは削り減らすことが可能になる。


また、相手との距離を狭めることは、相手が空間内での変化を少なくすることにもなる。


相手との空間(距離)を狭めることによって、いく点かの利益を得ることができるが、相手との空間を狭めるにあたり、もっとも重要なポイントは交叉である。


つまり力を発揮するには、その媒介となる手足の動きが必要であるが、自分の手足を相手の手足に交叉させることによって、相手の手足の動きによる力の発揮をくい止め、相手の攻防の変化を防げるのである。


自分よりリーチ・力の優る体の大きい相手との戦いは、交叉法を活用した接近戦を使うことによって、そのハンディーキャップを補うことができる最も良い方法である。


それに交叉法を認識、活用することによってはじめて、中国拳法の特長である円運動が有効となり、攻防一体の動きを可能にさせ、小をもって大を制することができるようになる」


【打ち込める隙間とは】


打ち込める隙間とは、打ち込められる隙間や空間である。つまり相手が守っていない所や守りの弱い所である。


たとえば構えの低い人の場合は頭部であり、構えの高い人の場合は腹部などである。


構え中段でも手と手の間や、上下・左右など守りきれぬ所はみな隙間である。相手の隙間を見つけることで、先制攻撃を仕掛けられる。これによって相手を遅らせ、先手を取ることができる。またこれにより新たな隙間を導くことも可能になる。


【動ける隙間とは】


動ける隙間とは、動けるための隙間や空間である。動くには空間が必要なのは周知の通りである。さがる・避ける・打つ・受けるなどは共に空間がなければできない。


さがる・避けるには後と左右の空間が必要である。これと同様に打つ・受けるにも前の空間が必要である。これは壁の前に立って試すとよくわかることである。壁と体の空間をなくすと(壁と体が密着する)打つことも受けることもできない。


組手の時、相手を攻撃してもなかなか意にかなえることができないのは、相手は攻撃に応じて動くからである。このため相手の動きをいかにして止めるかは、組手の重要な課題である。


これはいかにして相手の動く空間を狭め、なくすことかである。ここでは、さがる・避けるための後の空間は、説明の便宜上研究の対象からはずし、打つ・受けるに必要な前の空間を分析して行こう。


前の空間、いいかえれば勢力範囲や縄張りである。静止した構えを具体的な例にすると、構えの両手と体との間は前の空間であり、自分の勢力範囲・縄張りである。そして両手はその警戒線(境界線)となる。


前の空間を広く持つことにより、勢力範囲は広くなり、警戒線も前方に広がり、ふところの奥行きが深くなる。こうすれば相手の攻撃に対し、いち早くしゃ断することができ、自分をより安全にする。


また警戒線(両手)が前方に位置しているから、相手に近い拳掌はよりすばやく、正確な攻撃を可能にし、たえず相手の脅威となる。


中国拳法では寸勤といって、手を後ろに引いて弾みをつけて打たなくとも、相手にごく近い距離から打っても、相手を倒す打法があるし、またあまり引いて打つ打法はない(あまり引いて打つと攻撃目標に当てにくい)ので、両手を前に出しておいても何ら不利とならない。


反対に前の空間が狭いと、警戒線も狭まり、相手の手が目前に迫り出し、自分の動きを妨げ、攻防を困難にする。いわゆる打たれる隙間を小さくし、動く隙間を大きくする」