「塩田先生は晩年、「合気道とは天地自然と一体になることだ」とおっしゃるようになりました。そして「植芝先生は神だの宇宙だのわけのわからないことばっかり言ってたけど、ようやくその裏付けが取れてきた」ともおっしゃったのです。
私が若い頃の塩田先生は、強い呼吸力を発揮する激しく厳しい技ばかりで、こちらが受けを取るのも必死でした。しかし年齢を重ねるにつれて、相手の力を消したり、抜いたりという技が身につき、まったくの自然体で自由自在に相手を崩すようになりました。
以前は技の強さによって逆らえなかったのが、次第にふわっとしているけれども逆らえない技に変わってきたのです。相手の力を全部自分のものにするのだと先生は言うのです。そういった高い技術を習得されたときに、気が付いたら植芝先生のおっしやっていた「天地自然と一体になる」という境地が、理屈ではなく、実感として自分のものになったのでしょう。
そして、私自身も六十歳を超えた頃から、相手の力を消してしまう技が身についきました。
それを今私は「抜き」と呼んでいますが、その技術に熟達するにつれ、まさにどこにも無理がなく、自然体そのものから技が自由自在に生れてくるようになりました。
そこには相手と争うような気持ちはこれっぽっちも必要ありません。自然体ということの本当の意味がわかってきたのです。そうしたら、合気道がますます楽しくなってきました。
塩田先生は、剣術家・鬼一法眼の「対すれば相和す」という言葉を、合気道の技の極意であり精神的理念の象徴として、常に私たちに説いていましたが、私にもようやくその言葉が、なるほどなあと実感を持てるようになってきました」
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