FullSizeRender

「技術面での新発見にコツというものがあるとしたら、これまでの常識を全て疑い、一からヒトの動作を考えることだ」

「例えば、ヒトはなぜ「後ろ向きで走ると遅くなる」と思うのだろうか。わかっていても、その本当の理由を答えられる人は少ないだろう。もしかしたら後ろ向きで走る方が速いかもしれないのに誰も試そうとはしない。私は実際に後ろ向きに走って確かめた。
これは極端な例だが、こうした一見、馬鹿々々しいと思われるようなことでも、自分が納得するまで繰り返して確認する。大切なのは実践し、関節や筋肉の動きを感じ、そして考えることにある。繊細な技術を要するやり投げに近道などない」

「肩関節をカチッとキメたのが生きる。肩関節をキメておくと最後のフィニッシュ時にそれが破壊され、爆発的なパワーを引き出すことができる。
何でもそうだが硬ければ硬いほど反発が強い。
細長い鋼鉄を手で曲げようとしても曲がらないばかりか、逆に反発して自分に跳ね返ってくることがある。ようはその原理を、骨に置き換えるのだ。
人間の体の中でもっとも硬いものは、筋肉ではなく骨だ。だからその骨の反発を使うのである。

私はよく「骨を使って投げる」と表現するのだが肩関節を支柱にして腕と鎖骨など骨の硬さをテコにして投げるのである。
もちろん、そんなことをしたら肩は破壊されるかもしれない。骨は折れなくても、支えている腱や筋肉が千切れるかもしれない。しかし、そんなことはどうでもいい」

「やり投げで、世界トップに立とうと思った。

だから肉親とか恩師とか女とか、そのような存在は無視すべきものであり、他人からどうこう言われようが自分が一旦納得したら、それを貫き通した。素質のない私のような日本人が、やり投げで世界トップに立つためには、それくらいの覚悟が必要だった。
もしかしたら、素質がなかったからこそ、馬鹿に徹し切れたのかもしれない」

「試合に出るからには順位も重要だが、陸上が他の競技と違うのは、世界大会での優勝の他に「記録」も重要な点だ。
私の目標も、いつも自己ベストを出すことにある。WGPシリーズや世界大会での優勝は、あくまでそこから派生した結果でしかない。
そして、私のいう自己ベストとは己の本当の意味での限界のことである。それは同時に陸上投擲界では日本人初となる世界記録を投げることへとつながる。
私は常々「自分はやり投げのプロだ」と自任しているのだが記録を意識する点では、やはりアマチュアなのだ。
世界記録さえ出せれば、体はどうなってもいいと考えているからだ。これはアマチュアの考え方で、プロではない。
プロは良い記録を、長く出す必要がある。例えば日本選手権の一〇連覇や、オリンピック入賞となれば、スポンサーとなってくれている企業が生活を保障してくれるかもしれないし、どこかの大学から指導者として声がかかるかもしれない。
しかし、私にとって、そんなことは眼中にない」

「それまでは「気合で投げるしかない」と思ってやってきたのだが、気合で投げるというのは、逆に弱いからではないか。
つまり弱いからこそ、気合いに頼る。気持ちに余裕がない」

「一瞬に賭けるという言葉がある。
実際に多くの一瞬を経た上でさらに他の誰も達したことのない高みにある一瞬にかける。
誰も達したことのない高みに達することができた者だけが、唯一その一瞬に賭けることが許される」

▼▼▼

全編に気迫漲る。読んでいて疲れるのはボディビルの巨人合戸さんの著書以来か