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「俺は詐欺師が大好きなんですよね。

「猪木さん、あの人は詐欺師ですよ」って忠告されるんですが、ああ知ってるよ。詐欺師は面白いじゃないかと。

だって彼らは夢というかロマンを持ってきてくれるわけでしょ。

その話に乗るか乗らないかは自分で判断することですから。そのためにお金もだいぶ突っ込んだこたもありますけど(笑)、それも自己責任だし。

だまされたことになんとも思わないってことはないんだけど、過去を引きずってるヒマはないんだよね。もう次に走ってるから」


「俺は誰にどう褒められようが、どんな文句をいわれようがどうだっていいですよ。

だからって付き合わないことはないからね。

そういう見方もあるんだなってだけで根に持つってことは俺にはないから」


「一寸先はハプニングじゃないけど、よくシナリオがあってどうのこうのっていわれるわけでしょ。

どんなものにだってシナリオはあるだろうけど、そんな見え透いたシナリオじゃ面白くないだろう?」


「(UWF対新日本の対抗戦、高田戦の武藤の入場パフォーマンスに対して)あんな真似をすることで客の緊張感は一瞬で消える。

いったん下がっちゃったら二度と戻せない。(中略)あの試合だったら何回でもやれる。お金にすれば何十億ですよ。

一瞬でお客の心をガチャーンとどう掴めるのか。タイガー・ジェット・シンなんかはそこを心得てるのかな。いいか悪いかは別にしてそういう機微がわかっている」


「結局のところ俺は興行というものを親父、つまり力道山から教わったんです。(中略)力道山という存在はもう突き抜けてました。そして非常識の塊のような人でした。

非常識なことを平気でやるから世の中が騒ぐってわけじゃないですが、やっぱり興行にとって必要なパフォーマンスのうまさが親父にはあったんです。

それこそ池に石を投げてポチャンと沈んでしまうのか、それとも大きな波紋がどんどん広がっていくのか」



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佐山聡
「猪木さんがやっていたことは「プロレス」ではないかもしれない。ただ格闘技でもないので、あれは「猪木イズム」という独自のジャンルだったと思う」

前田日明
「当時は新日本プロレスはバブルの真っ最中で、それで二十何億の借金があるとかいってたから、日割り計算でも利子が500万円、600万円つくって話で、そんなの毎日巡業やっていても追いつかないよ。だから今考えたら、とにかく猪木さんって気持ちが折れないんだよね。そんな状況でも、どっかからカネを引っ張り出そうとしてるんだよ。そりゃ借金は返さなきゃよくないんだろうけど、あの絶対に折れない気持ちの強さは本当にすごいと思う」

「アントニオ猪木の後継者というのは、いわゆるリング上でのスタイルだとか、新日本をどう動かすとかそういうことじゃなくて、土俵際まで追い詰められて孤立無援になってもやっていける人間、あるいはプロレス界全体を背負ってやるって気概を持っているかどうかってことだと思う」

「猪木さんは内弁慶じゃなくて、いつも外を向いているんだよ。それで今のプロレス界もそうだし、俺らの世代を見渡してもダメだなって思うのは、全員が内側を向いてるんだよね」

「猪木さんがやったことを考えると、あの人はやっぱり度胸があるんだよ。プロレス界でもいちばん度胸があった」

蝶野正洋
「猪木さんっていうのは、そういう(実業家)トップの人との付き合いがある一方で、東京プロレスとか新日本の立ち上げの時なんていうのは、今みたいなチケット販売システムがないかは、一枚一枚手売り営業を自分でもやるっていう、演歌歌手みたいなこともやってたわけでしょ。(中略)スポーツ界や興行界のトップどころを見ながらも、ドブ板的なこともできるという。だから猪木さんの営業力っていうのは、他の人間とは全然違うんだよね」

「(とある営業最中)、そうすることで「コイツは払えるのか、払うのか」っていうのを、猪木さんは仕掛けて見極めてるわけ。それを失礼にならないギリギリのところを見極めて仕掛けるという。まったくプロレスと一緒なんだよ。やりすぎて、試合が不成立になってはいけないけど、腹を探り合いながら、そのギリギリまで仕掛けていくっていくね」

武藤敬司
「総合格闘技が猪木さんのやりたかったことだとはとても思えない。だって猪木さんはアマチュアイズムが好きじゃないもん。基本、興行のことばかり考えている人だからね。アマレスや柔道なんかの勝った負けたにはいっさい興味がないと思う」

「ただ、きっと「強さ」っていうもんへの憧れはあったと思うんだよな。それと同時に、強さというものの難しさも猪木さんは知ってたんじゃないか」

「だって猪木さんの前を通りすぎた人たちって、すげえ人ばっかりじゃん。モハメド・アリ、ウイリエム・ルスカ(中略)その道を制した人ばかりでしょ。だから強さへの難しさっていうのを知ってたと思うよ」

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プロレスでの出来事は演出が多く、どこまでが本当で嘘なのかわからない。

パフォーマーとしての猪木、一大ブームを作り上げた経営者としての猪木を感じる一冊。

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