3a90815b.jpg「俊才は絶対に勇者にあらず、智者も決して戦力になり得ず」

戦後70年。終戦の日、前後のメディアはこぞって戦争を振り返った。なぜ日本はもっと早く停戦できなかったのか。太平洋各地での惨敗。本土への大空襲。はては広島、長崎への原爆投下。いくらでも止めるきっかけはあっただろう。すべての判断は大本営なる機関による。
いったい大本営とはなんぞや。そして偶然見つけた本作。第二次世界対戦末期の大本営情報参謀の回想録。

情報の仕事とは

「枝葉末節にとらわれないで本質を見ることだ。文字や形の奥の方には本当の哲理のようなものがある、表層の文字や形を覚えないで、その奥にある深層の本質を見ることだ」(by土肥原賢二)

「フィクションは絶対許されない。不明は不明として、ノンフィクションでなければならない」

そして、情報を読み違えた執行部、大本営の姿が浮かび上がる。だが、勧善懲悪の単純な状況ではないことも読み進むにつれてわかってくる。

メンタリズムの罠」、「コールドリーディング」、「神は妄想である」などの書物を通じて理解できたのは人間は「信じたいものを信じる」性質にあることだ。受け取る情報が何種類かあったら信じたいものを選択する傾向にある。対象が宗教であっても、超能力であっても、超常現象であっても同じこと。
大本営の判断は本来なら客観性を重んじるべきで情緒的な判断が許されるはずはないが、やはりそこは人間の儚さなのかもしれない・・・。

この時代を覆ったのは撤退を良しとしない「空気感」(by猪瀬直樹)。

とかく「空気を読め」などとする現代において企業や学校や社会の組織において、まったく情緒に流されず行動できる人間はどれほどいるのだろう。冒頭の言葉が染みる。

「戦争に負けることは早くから判っていたんでしょう。それなのにどうして今まで戦争を続けたんですか」
戦後、筆者に向けられた質問。同じく軍人であった筆者の父親が答える。
「そんなことを聞くのは筋違いだ、これ(堀)は軍人だったのだ。軍人はあの機関銃で死ぬと思っても、突撃と命令されたら突撃するのが軍人の本分だ。彼らは戦場を捨てることは出来ないのだ」
「戦闘軍人と戦争指揮軍人とは異なっている」

記録を残そうとした筆者にも父親が釘を刺す。

「負けた戦さを得意になって書いて銭を貰うな」

当時の軍人の気概が伝わってくる。この敗戦の記録は現代も様々な業種、職種に活かされるだろう。読み物としてもおもしろい。ただ、読み進むのは日本人として辛い。


大本営参謀の情報戦記―情報なき国家の悲劇 (文春文庫)

大本営参謀の情報戦記―情報なき国家の悲劇 (文春文庫)


著 者:堀 栄三


販売元:文藝春秋

発売日:1996-05