「アスリートとしてはもちろん一人の人間として、「どんなに成長しても宿題は必ず待っている」という実感を抱いている。二年に及ぶ長いスランプから、自分のエゴに固執すれば成長は止まるということを学んだ。記録を伸ばしたい、ライバルに勝ちたいといった思いだけで突っ走らずに、周りの意見を聞き、身体の囁きに耳を傾け、自然への敬意を忘れないように心がけるようになっていった。日頃から自分を支えてくれる人がいなければ、大会に出場するための準備さえままならない。パートナーがいなければ、練習はできない。ライバルの存在は、向上心をかき立ててくれる。大会を運営してくれる人たちがいるからこそ、選手は安心して記録に挑戦する機会を得られる。
何よりも、海がなければフリーダイビングはできない。自分一人では何もできないことに気づけば、エゴなんてホントにちっぽけなものだと思える。
流した汗は嘘をつかないし、スランプから抜け出すには練習が欠かせない。ただ、努力を怠らなければ、欲しいものは必ず手に入ると考えるのは間違いだ。ライバルだって努力している。どんなに強い思いを抱いて突き進んでも、解決できないことはある。
大切なのは努力の方向性だ。自分のプライドを満たすことだけを考えずに、周囲のアドバイスに耳を傾けることで、目ざすべき方向へ近づくことができると思う。
自分がスランプから脱出すると、周囲の見えかたが変わった。「どうして自分だけがこんなに苦しむのか」という独りよがりの思いがきれいに抜け落ちて、「そういえばあの選手も同じように苦しんでいた時期があったな」というふうに物事を俯瞰できるようになった。
世界の最前線で10年以上も戦っていれば、誰しも一度は恐怖を味わっている。負のスパイラルに陥ることも避けられない。逆に言えば、どうしようもない時期を乗り越えた人間こそが、10年、20年とトップクラスで活躍できるのだろう」(by篠宮龍三)
「人間の好奇心はときに死の恐怖をも凌駕する。実に恐ろしいことだ。「もっと先へ行きたい」という子どものような自分がひとり歩きをすると、大変なことになりかねない。だからこそ、「このへんにしておきなさい」とたしなめる、親のような自分を同居させる」(同)。
また、マイナー競技ゆえに、競技者でありながら、大会運営もこなさなければならない難しさを著者は語る。同じくメジャー競技とは言いがたい柔術も考えさせられる内容である。中でも大会運営の苦い体験には、私も苦笑いせざるを得ない(^^;。
「苦しんだ時間や出来事のすべてに、いまは感謝できる」(同)。
個人的に深い感銘を受けた。
「恐怖を感じるとアドレナリンが大量に分泌され、心拍数が上がる。焦れば焦るほど、脳が酸素を消費する」
「「勝ってやろう」とか、「死んでしまうかも」といった邪念や恐怖心から離れて、一本の潜りに集中する。勝つためにどうするのか、死なないためにどうするのかといった対処法は潜る前にすべて考えてシミュレーションし、潜る段階では手放すのだ」(同)。
素潜り世界一 人体の限界に挑む (光文社新書)

著 者:篠宮 龍三
販売元:光文社
発売日:2014-07-17


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