f92ba098.jpg「僕は、サイクルロードレースを仕事にしている。

日本ではマイナーだが、ヨーロッパではサッカーやテニスと並ぶ地位にあるこのスポーツは、ちょっと残酷な競技だ。

200人近くが出走するのに、勝てるのは一人だけ。サッカーなら勝率は50%なのに、ロードレースじゃ0.5%しかない。200分の1。
たった一勝もできずに引退していく選手すら珍しらしくない。

若い頃の僕はずっと、0.5%になろうとして走ってきた。そのためには残りの99.5%を蹴落とさなければいけない。そう思っていたし、実際、そう振る舞っていた。

日本のレースで勝つたびに、僕の敵は増えた。
けれど、このスポーツは僕に、別の価値観を示してくれた。それは、他人のために働くということ。僕がヨーロッパで走った8年間で得たものは、アシストの喜びだ(中略)
戦略を立てて、その通りにレースを動かす。
狙い通りにいっても、勝つのは僕ではなくエースだ。でもエースの勝利は僕の勝利でもある。今の僕は、計画を立てて人の背中を押すことに喜びを感じる。

しかし、僕がその楽しみを知るまでには、長い時間がかかった」

「アスリートは囚人みたいなものだ。すべてにおいて制約だらけ」

「サイクリストは苦しむのが仕事なんだよ」

サイクルロードレースの本場ヨーロッパのレベルの高さに圧倒され、もがく著者。

「僕はツール(ド・フランス)を走ることがどれだけ凄いか理解していなかった。
たがら、ツールを目標にできたのかもしれない」

本書ではスポーツ界のダークサイド、ドーピングについても赤裸々に語られている。

「悪いヤツがズルをするためにドーピングに手を出す。それが日本でのドーピングへのイメージだと思う。でも、現実はそんなに簡単じゃない。(中略)
要するに、やらないと勝てない環境があるから、やる。それだけだ」

さらに八百長まで言及。そのくだりがユニーク(笑)。勝つためにやれることは全部やり尽くす。不正と一言では片付けられない勝負に対する厳しい姿勢を感じさせる。

彼らにとってはレースが仕事なのだ。勧善懲悪ではない、問題の本質はどこにあるのか、傾聴に値する意見だと思う。

光があれば陰もできる。綺麗事ではない現実。それを恋人になぞらえて深く愛するとはどういうことかと問いかけている。

これらすべてを乗り越えてスポーツの良さを感じられる一冊。

私はアスリートではないが、アスリートが好きだし、リスペクトしている(^^)b

敗北のない競技:僕の見たサイクルロードレース

敗北のない競技:僕の見たサイクルロードレース


著 者:土井 雪広


販売元:東京書籍

発売日:2014-04-18